「設計基準通りにプルボックスを選んでいるけど、本当にそのサイズ、必要ですか?」
設計図や建築設備設計基準に従ってプルボックスを選定すると、寸法がやや大きめになる傾向があります。
しかし、計装工事で使用されるケーブルは、LANやCVVなど細くて柔軟なものが中心です。
そのため、現場ではスペースやコストの制約を踏まえ、よりコンパクトなサイズで十分対応できるケースも少なくありません。
本記事では、設計基準に基づく寸法算出方法と、ケーブルの曲げ半径から導く実用サイズとの違いを比較しながら、
現場で使えるサイズ選定のポイントをわかりやすく解説します。
※本記事は筆者自身の現場経験に基づいた内容を含みます。参考にされる際は、必ずご自身の判断と責任のもとで対応をお願いいたします。
例えば、E51×1本の配管において、途中に中継用のプルボックス(直角)を設けるケースを考えてみましょう。
このような場面では、設計基準に従って寸法を算出すると、比較的大きなサイズが求められることがあります。
しかし、実際には収納するケーブルの種類や柔軟性、現場のスペース制約などを踏まえると、よりコンパクトな寸法でも十分対応可能な場合があるのです。
特に計装で扱うケーブルは、電力系で使用されるCVTなどのケーブルとは異なり、細くて柔軟なものが中心です。
そのため、同じ電線管やプルボックスを使用する場合でも、必要とされるスペースや曲げ半径の条件が大きく異なることがあります。
設計基準では一律の寸法が示されていることが多いですが、ケーブルの特性に応じた柔軟な判断が、現場では求められる場面も少なくありません。
それでは、実際に建築設備設計基準に基づいて寸法を計算してみましょう。
具体的な配管条件をもとに、プルボックスのサイズを算出し、現場での判断材料として活用できるかどうかを検証していきます。
直角配管(ケーブル)の寸法算出式
■ 算出式(建築設備設計基準より)
A(幅)・B(長さ)=Σ(P+30)+30+3Pm
- P:接続する電線管の呼称(例:E51 → 51)
- Pm:接続する電線管のうち最大サイズの呼称(例:E51 → 51)
- ※A・Bともに200mm以上とする
計算例:E51 × 1本の場合
■ 条件
- 接続管:E51 → P = 51
- 最大管:E51 → Pm = 51
- 本数:1本
■ 計算
A・B = (51 + 30) + 30 + (3 × 51) = 81 + 30 + 153 = 264 mm
→ よって、A・Bともに 264mm
(※200mm以上の条件も満たしています)
ポイント
- 「Σ(P+30)」は接続する管それぞれに対して30mmの余裕を加えた合計
- 「+30」はボックス内の余裕寸法
- 「+3Pm」は最大管サイズに対する曲げスペースの確保
- 最終的に200mm未満の場合は200mmに切り上げるのが原則
既製品のプルボックスは、一般的に100mm単位で設計・製造されているため、このケースでは300mmサイズのプルボックスを選定します。
計算上の寸法は264mmですが、既製品の規格に合わせて最も近い上位サイズである300mmを採用することで、施工性と規格適合の両立を図ります。
本当にそのサイズ、必要ですか?計装工事におけるプルボックス再考
計装工事において、設計基準通りのプルボックスサイズが本当に必要か、一度立ち止まって考えてみる価値があります。
使用するケーブルの太さや本数、施工スペースの制約を踏まえると、よりコンパクトなプルボックスでも十分対応可能なケースは少なくありません。
もちろん、設計基準に従うことは重要です。
しかし、現場の実情に合わせた判断もまた、施工者としての経験と知恵が問われる部分です。
計装工事で使用されるケーブルの多くは、LANケーブルやCVVなどの通信系ケーブル。
これらは電力ケーブル(CVTなど)に比べて細く、柔軟性が高いため、必要とされる曲げ半径も小さくなります。
そのため、設計基準に従った大きなプルボックスが本当に必要かどうかは、現場の状況を踏まえた再検討が求められます。
実際の現場では、ケーブルの種類・本数・配管経路・設置スペースなどを総合的に判断し、必要最小限のサイズで施工することが一般的です。
設計基準はあくまで目安であり、計装工事ならではの柔軟な対応力が求められる場面も多く存在します。
曲げ半径から見る実用寸法の検証
例えば、LANケーブルとCVVケーブルを比較すると、CVVケーブルの方が太くなります。
計装工事で使用される中でも比較的太い部類に入るのが、CVVS 1.25sq × 7心ケーブルです。
このケーブルの外径は約12.5mmとされており、最小曲げ半径は「外径の6倍程度」が目安とされています。
12.5mm × 6(倍) = 75mm
つまり、最小曲げ半径は75mmです。
では、200mm角のプルボックスでL字型に配管した場合、この曲げ半径を確保できるのでしょうか?
プルボックスの中心から管の中心までの距離は、ケーブルの曲げスペースの目安になります。
200mm角のプルボックスであれば、中心から管までの距離は約100mm。
この場合、CVVS 1.25sq × 7C(外径12.5mm)に対して、最小曲げ半径75mmは理論上十分に確保可能です。

「200mm角プルボックスで確保できる曲げ半径のイメージ」
上図のように、200mm角のプルボックスでは、中心から管の中心までの距離が約100mm確保できます。
この場合、ケーブルの曲げ半径としてR=100mmが取れるため、CVVSケーブル(外径12.5mm、最小曲げ半径75mm)でも十分対応可能です。
計装工事で扱うケーブルの中でも太めの部類に入るCVVSを選定した場合でも、外径の6倍という基準値(75mm)を満たすことができることが確認できます。
なお、これはケーブルが電線管の中心を通る場合を前提とした検証ですが、仮にケーブルが管の内側寄りを通った場合でも、約75mmの曲げスペース(最小R)は確保可能です。
実用寸法と設計基準のギャップ
計装工事で使用されるケーブルの多くは、さらに細く柔軟性が高いため、設計基準通りの大型プルボックスが必ずしも必要とは限りません。
先ほどの設計基準に基づく寸法算出と、今回のようにケーブルの曲げ半径を基準にした算出方法を比較すると、プルボックスのサイズに大きな差が生じることがわかります。
現場では、他設備との干渉やコスト、施工性などの要素を考慮すると、よりコンパクトなサイズのほうが都合が良いケースが多いのが実情です。
設計基準は安全側に寄せた寸法を示していますが、計装工事で扱うケーブルは比較的細く、柔軟性にも優れているため、理論値よりも小さなボックスでも十分に対応可能な場合が多くあります。
| 算出方法 | 条件 | 算出寸法 | 実際の選定サイズ(既製品) |
| 電技計算式 | E51、直角配管 | 264mm | 300×300×200mm以上 |
| 曲げ半径基準 | CVVS 1.25sq × 7C (外径12.5mm) | 曲げ半径75mm → スペース100mmでOK | 200×200×100mmでも対応可能 |
設計基準(電気設備技術基準・建築設備設計基準)は、安全側に寄せた寸法を示しているため、プルボックスのサイズが大きくなる傾向があります。
一方、計装工事で使用されるLANケーブルやCVVケーブルなどは、細く柔軟性が高いため、曲げ半径を基準に考えると、よりコンパクトなプルボックスでも十分に対応可能なケースが多くあります。
では、設計基準通りに300mmサイズのプルボックスを使用した場合、実際の施工ではどうなるのでしょうか?
理論上は十分な曲げスペースが確保でき、安全側の寸法として安心感があります。
しかし、計装工事で使用されるLANケーブルやCVVケーブルのように細く柔軟なケーブルであれば、そこまでの寸法が本当に必要かどうかは、現場の状況によって再検討の余地があります。
300mmサイズのプルボックスは、余裕がある分、施工性は高まる一方で、スペースやコストの面では過剰となる可能性もあります。
そのため、設計基準と現場判断のバランスをどう取るかが重要なポイントとなります。

サイズ比較の考察
今回の図のように、300mm角と200mm角のプルボックスを比較しても、配管の取り付け位置が同じであれば、ケーブルの曲げ半径として確保できるスペースはほぼ同じになります。
つまり、プルボックスのサイズそのものよりも、配管の取り付け位置(中心からの距離)こそが、曲げスペースの確保において重要な要素であることがわかります。
現場での判断ポイント
- 配管の位置が適切であれば、小型ボックスでも曲げ半径を満たせる
- ボックスサイズを大きくしても、配管が端に寄っていれば意味がない
設計図は『完成形』ではなく、現場に伝えるための『たたき台』
設計図というのは、現場に「このようなものを作ってください」と伝えるための、いわば『たたき台』です。
細かな寸法やメーカーの品番まで詳細に記載されているわけではなく、「このような構成で、この設備を導入する予定です」といった、設計者の意図を示す図面なのです。
たとえば、プルボックスひとつを見ても、設計図には「300mm角」とだけ記載されていることが多く、どのメーカーの製品を使うか、配管の位置がどこになるかなどは記されていません。
それもそのはずで、設計段階では他設備との取り合いも未確定ですし、現場のスペースもまだ見えていないことが多いからです。
つまり、設計図は方向性を示すものであり、実際の施工方法は施工図や現場での判断に委ねられるということです。
施工図では、配管の位置やボックスの高さ、他設備とのクリアランスなどを細かく調整し、「これなら現場で納まる」という状態に仕上げていきます。
設計図を見て「この通りに施工すればいい」と考えるのは危険です。
設計者の意図を汲み取りながら、現場の状況に合わせてどう落とし込むか。
そこにこそ、施工者の腕の見せどころがあるのです。
結論:設計基準と実施工のバランス
計装工事で扱うケーブルの中でも太めのCVVSケーブルを例にとっても、200mmサイズのプルボックスで曲げ半径の基準を満たすことが可能です。
つまり、設計基準に従った大きなサイズが必ずしも必要とは限らないことがわかります。
電源配線におけるプルボックス寸法と曲げ半径の関係
検討条件
ケーブル構成:CVT 14sq(外径:約21mm、必要曲げ半径:約126mm)+ 接地線 IV 8sq(外径:約5.5mm、必要曲げ半径:約33mm)
電線管:E51(内径:約48mm)→ 内線規程「管内占積率32%以内」を満たす(※E39ではNG)
プルボックス寸法:300×300×200mm(中心配置、直角方向)(建築設備設計基準に準拠)
曲げ半径:中心配置ならR=150mm → CVT14の必要曲げ半径126mmをクリア
電流値:今回の検討では無視(※実際は電線管収容数に応じて電流減少係数が発生)
- 設計基準通り300mm角のプルボックスであれば、中心から配管を接続することで、必要最小曲げ半径を十分に確保可能です。
- 一方、200mm角のプルボックスでも、配管位置を外側に寄せることで、ギリギリ必要曲げ半径を満たすことが可能です。
※ただし、施工性や保守性を考慮すると、余裕を持った寸法選定が望ましいです。
建築設備設計基準の位置づけ
- 法令ではなく、設計指針(ガイドライン)
建築設備設計基準は、電気設備技術基準や建築基準法のような法的拘束力を持つものではありません。
あくまで、設計者が設備計画を立てる際の参考指針として位置づけられています。 - 公共工事では「準拠」が求められるケースがある
官庁施設などの公共工事では、設計図書に「建築設備設計基準に準拠」と明記されていることがあり、
実質的に遵守が求められる場面があります。
これは、設計の妥当性や審査・検査時の根拠として、基準に沿った設計が必要とされるためです。 - 民間工事では柔軟な運用も可能
民間案件では、設計者や施工者の判断により、
施工性・コスト・スペースなどを考慮して、基準よりもコンパクトな設計が採用されることもあります。
ただし、安全性や保守性を損なわない範囲での調整が前提です。
ケーブルの曲げ半径(R)は、どの基準で決まるのか?
ケーブルの曲げ半径(R)には、いくつかの規格や技術基準があり、ケーブルの種類ごとに適切な値が定められています。
以下に、主な根拠となる規定を整理します。
主な規定の根拠
JIS(日本工業規格)
- 電力ケーブル:JIS C 3605
- 制御ケーブル:JIS C 3306
- 一般的な目安:
・CVケーブル(600V)→ 外径の6倍以上(固定部)、8倍以上(可動部)
・通信ケーブル(LANなど)→ 外径の4倍以上(TIA/EIA規格に準拠)
電気設備技術基準の解釈
- 「電線に過度な曲げを与えてはならない」との記述は、電気設備技術基準の解釈 第3条に含まれており、具体的な数値はJISや各メーカーの標準に準拠する形となっています。
メーカー標準
- フジクラ、矢崎、古河などのケーブルメーカーがカタログで推奨値を提示。
- 例:
・CVTケーブル → 外径×6倍(固定)、外径×8倍(可動)
・CVVSケーブル → 外径×6倍(固定)、外径×8倍(可動)
・LANケーブル(Cat6)→ 外径×4倍(TIA/EIA-568規格)
まとめ
| ケーブル種別 | 曲げ半径の目安 | 根拠規格・基準 |
|---|---|---|
| CVケーブル | 外径×6倍(固定)/×8倍(可動) | JIS C 3605/メーカー標準 |
| CVVSケーブル | 外径×6倍(固定)/×8倍(可動) | JIS C 3306/メーカー標準 |
| LANケーブル(Cat6) | 外径×4倍 | TIA/EIA-568規格 |
このように、ケーブルの種類によって適用される曲げ半径の基準が異なります。
現場での施工時には、設計図だけでなく、ケーブルの特性や規格に基づいた判断が重要です。
設計者の思いと現場の現実。その橋渡しをするのが、施工図と現場の工夫なんです。
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