前回の記事では、強電用ケーブルラックの選定にあたり、ケーブルの幅と重量からサイズを算出しました。
しかし、実際の設計ではそれだけでは不十分であり、地震時の荷重も含めた検討が不可欠だと考えています。
関連記事
前回の記事:強電ラックの選び方、聞かれたので考えてみた
耐震支持:耐震荷重も含めた設計が必要
仕様書には「耐震支持を設けること」と明記されています。
地震時には、ケーブルラックや支持金具に水平方向の力(=耐震荷重)が加わるため、どれだけの力に耐えられるかを数値で確認することが重要です。
つまり、構造的な「耐震支持」と、力の大きさを見積もる「耐震荷重」は、セットで考えるべき設計要素だと考えています。
なぜ耐震荷重を考慮すべきか?
地震時の水平方向の力が加わる
ケーブルラックの設計では、通常の静荷重(鉛直方向)だけでなく、地震時に発生する水平方向の力=耐震荷重も必ず考慮する必要があります。
地震時には、ケーブルやラックに横揺れによる慣性力が加わり、吊りボルトや支持金具に破損・脱落のリスクが生じます。
公共仕様書でも耐震支持が明記されている
公共建築工事標準仕様書(電気設備工事編)では、耐震支持の設置が明記されており、特に鋼製ラックや高所設置では斜材・振れ止め金具の追加が必須とされています。
しかし、構造的な耐震支持だけでは不十分であり、実際に加わる力=耐震荷重を数値で評価することが重要です。
重量が大きいほど耐震荷重も増加する
耐震荷重は、以下の式で算出されます。
耐震荷重=自重 × α
- 例:80kgの荷重 × α1.0(中間階・耐震クラスA)= 80kgfの水平方向荷重
ケーブル重量が大きいほど、耐震荷重も比例して増加するため、高荷重ラックでは特に注意が必要です。
支持間隔・吊りボルト長・ラック幅が広い場合は特に重要
長距離支持や高所設置では、振れ止めや補強なしでは安全性が確保できません。
耐震荷重を考慮することで、支持部材の選定や補強の要否を数値で判断できるようになります。
つまり、「耐震支持を設けること」だけではなく、「耐震荷重に耐えられるか」を数値で確認することが、安全設計において不可欠です。
静荷重と耐震荷重は方向が異なるため、それぞれに対して適切な支持・補強を行うことが求められます。
対応ポイント
| 項目 | 対応内容 |
|---|---|
| 耐震荷重の算出 | 自重 × α(地震加速度係数)で水平荷重を計算 |
| αの設定 | 設置階・耐震クラスに応じて 0.4〜2.0 を選定 |
| 判定方法 | 耐震荷重 < 支持部材の許容水平荷重 であればOK |
耐震荷重は必ず考慮すべき設計要素です。
特に電源ケーブルや高荷重のケーブルラックでは、安全性・法令遵守・施工品質の面で不可欠な視点となります。
実際の設計では、地震時に加わる水平方向の力(=耐震荷重)を数値で評価し、その荷重に耐えられる構造かどうかを確認することが重要です。
この耐震荷重を算出する際に用いるのが、「α(アルファ)」と呼ばれる地震加速度係数です。
αは、設置階や耐震クラスに応じて設定される係数で、建築設備耐震設計指針などに基づき、0.4〜2.0程度の範囲で選定されます。
α(アルファ)の役割とは?
耐震荷重は、地震時にケーブルラックなどに加わる水平方向の力(慣性力)を見積もるために、以下の式で算出します。
耐震荷重は以下の式で求められます。
[ 耐震荷重 = W ×α ]
- ( W ):対象物の重量(kgf または N)
- ( α ):設計用標準震度(地震加速度係数)
この α(アルファ)を掛けることで、地震時に発生する水平方向の加速度に基づいた慣性力を数値化することができます。
αの値は、設置階や耐震クラスに応じて 0.4〜2.0 程度で設定され、耐震荷重の大きさを左右する重要なパラメータとなります。
αの代表的な値(建築設備耐震設計指針より)
| 設置階 | 耐震クラスS | 耐震クラスA | 耐震クラスB |
|---|---|---|---|
| 上層階(屋上・塔屋) | 2.0 | 1.5 | 1.0 |
| 中間階 | 1.5 | 1.0 | 0.6 |
| 地階・1階 | 1.0 | 0.6 | 0.4 |
- 耐震クラスS:重要施設(病院・防災拠点など)
- 耐震クラスA:一般的な公共建築
- 耐震クラスB:軽微な設備や非重要施設
αを使った実務例
計算で確認してみましょう(例)
- ケーブル荷重:57,500g = 57.5kgf
- 耐震クラスA・1階 → α = 0.6
- 耐震荷重(水平力): 57.5 × 0.6 = 34.5kgf
この34.5kgfの水平方向荷重に対して、支持金具や斜材が十分な強度を持っているかどうかを確認することが重要です。
特に高荷重の電源ケーブルや広幅ラックでは、耐震荷重が大きくなるため、補強の要否を数値で判断する設計が求められます。
ここまでのポイント
- 静荷重(鉛直方向)=57.5kgf
- 耐震荷重(水平方向)=34.5kgf
- よって、ケーブルラックには鉛直方向に57.5kgf、水平方向に34.5kgfの力が加わると想定されます。
ラックの選定基準として必要なこと
| 判定項目 | 必要条件 |
|---|---|
| 垂直方向の許容荷重 | 57.5kgf 以上 |
| 水平方向の耐震荷重 | 34.5kgf 以上(振れ止め・斜材などで対応) |
つまり、静荷重よりも耐荷重が小さいラックでは、鉛直方向の自重にすら耐えられないため選定不可(NG)です。
加えて、地震時に発生する水平方向の耐震荷重にも耐えられる構造補強(振れ止め・斜材など)が必要となります。
垂直方向と水平方向の両方の荷重に対して、数値で安全性を確認できる設計判断が求められます。
水平方向の耐震荷重に対する対策としては、「振れ止め」「斜材補強」「支持間隔の調整」などが基本です。特に高荷重・広幅・長スパンのラックでは必須です。
水平方向の耐震荷重対策の基本
以下は、ケーブルラックにおける水平方向の耐震荷重(=地震時の慣性力)に対する主な対策です。
振れ止め金具の設置(B種耐震支持)
- 吊りボルトに対して斜め方向に全ネジやアングル材を追加し、横揺れを抑制。
- 特に吊りボルトが長い場合や、支持間隔が広い場合に有効。
- ネグロス電工などのメーカーでは、専用の振れ止め金具がラインナップされています。
斜材補強(A種・SA種耐震支持)
- スラブや梁にアンカー固定されたアングル材を用いて、ラックを斜め方向から支持。
- 高所設置や立上りラックではB種(吊りボルト支持)では不適なため、A種またはSA種での設計が必要。
支持間隔の短縮
- 耐震クラスや設置階に応じて、支持間隔の上限が定められています。
- 例:耐震クラスA・中間階 → A種支持を12m以内に1箇所
- 耐震クラスS・上層階 → SA種支持を6〜8m以内に1箇所
- 吊りボルトが長い/ラック幅が広い/荷重が大きい場合は、さらに間隔を狭めるのが安全。
ラック末端部の補強
- ラックの端部は振れが集中しやすいため、耐震クラスに関係なく補強が推奨されます。
まとめ
ケーブルラックの選定は、基本的に垂直方向の静荷重に基づいて行われます。
しかし、地震時に発生する水平方向の揺れ(耐震荷重)はラック本体ではなく支持部材に作用し、その安全性は耐震基準(S/A/B)や支持金具の許容水平荷重によって左右されます。
したがって、耐震荷重はラック選定そのものではなく「周辺設計」において不可欠な検討要素となります。
なお、ネグロス電工の耐震関連資料には 「ケーブルラック幅が400mm未満の場合は耐震支持を省略できる」 という記載があります。これは、幅が狭いラックは地震時の水平荷重が小さいため、特別な耐震支持を設けなくても安全性を確保できるという考え方に基づいています。
さらに、通信用(弱電系)のケーブルラックはケーブル径が細く重量も軽いため、400mm以下で施工されるケースが多く、結果としてこの免除条件に該当しやすい傾向があります。加えて、現場の省スペース性も重要な要素です。通信用ラックは天井裏や機械室など限られたスペースに設置されることが多く、幅広ラックよりもコンパクトな400mm以下が選ばれやすいのです。
ただし、この規定は標準的な条件下での目安であり、実際の設計ではラック幅や設置階、ケーブル重量、支持間隔などによって耐震荷重の影響が変わるため、数値的な検討を行うことが望ましいといえます。
参考資料:<ネグロス電工>耐震設計・施工マニュアル
付加的な制振効果
ネグロス電工の「ZBDSシリーズ」は、耐震支持+制振性能を備えたケーブルラック支持金具です。
構造解析により、地震時の水平方向荷重を約40%低減する性能があり、吊り長さ2mまで対応可能です。
参考リンク(仕様・図面)
ネグロス電工公式:ZBDSシリーズ詳細
従来の「振れ止め」は、構造的に横揺れを抑えるための補強材(斜材・全ネジなど)でしたが、ネグロス電工のZBDSシリーズなどは、制振=揺れそのものを減衰させるシステムとして設計されています。
振れ止め vs 制振システムの違い
| 項目 | 振れ止め(従来) | 制振システム(ZBDSなど) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 横揺れを「支える」 | 横揺れを「減衰させる」 |
| 構造 | 全ネジ・アングル材などの斜材 | 制振ダンパー・特殊構造の支持金具 |
| 荷重対応 | 水平方向荷重に「耐える」 | 水平方向荷重を「吸収・分散する」 |
| 設計思想 | 静的支持(構造補強) | 動的制御(振動エネルギーの吸収) |
| メーカー例 | ネグロス電工 B種・A種支持 | ネグロス電工 ZBDSシリーズ (制振支持金具) |
耐震支持が「要件を満たしているか」の判断ポイント
耐震支持は 「耐震設計指針に定められた要求性能を満たしているか」 で判断します。カタログの「40%低減」は付加的な効果であり、要件を満たすかどうかは まず基本の耐震支持性能を満足しているか が基準になります。
基本的な判断の流れ
- 指針の要求確認
建築設備耐震設計・施工指針(2014など)に定められた「耐震クラス(SA/A/B)」ごとの支持間隔・支持方法を満たしているか。 - 荷重計算の実施
ケーブル重量 × α値 で算出した耐震時水平荷重に対して、支持金具・吊り材・アンカーが許容耐力を持つか。 - 構造的安定性
長スパン・長吊り・広幅ラックなど特殊条件で座屈や衝突が起きないか。
制振製品(例:ZBDSシリーズ)の扱い
- 耐震支持性能は満たしている前提
→ 製品は「指針に定める耐震支持の性能を満たした上で、さらに制振効果を付加」と説明されている。 - 40%低減は『追加の安全余裕』
→ 設計荷重を直接40%減らしてよいというより、「従来の耐震支持要件を満たした上で、さらに入力荷重を抑えられる」位置づけ。
実務での判断のまとめ
- Yes/Noの基準
- 指針に定める支持方法・間隔を守っているか
- 計算した耐震荷重に対して支持部材が十分な耐力を持つか
- 制振効果の位置づけ
- 要件を満たすかどうかの判断には直接使わない
- 要件を満たした設計に対して「さらに安全余裕を増す」効果として評価する
結論
「耐震支持は要件を満たしているか?」の判断は 指針の規定と荷重計算に基づいて行う。カタログの「40%低減」はその後に付加される安全余裕であり、要件を満たすかどうかの直接的な根拠にはならない。
「耐震支持が要件を満たしているかは、まず指針の規定と荷重計算で確認します。制振製品の『40%低減』は、その上で安全余裕を増す効果であり、要件を満たすかどうかの判断基準そのものではありません。」
強電ラックの選定については、筆者自身まだ経験が浅く、今回の記事は「計装工事を主に行ってきた立場から考えうる結論」としてまとめたものです。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。普段は弱電ラックの施工を中心にしている計装工事屋が整理した内容ですので、参考程度にご覧いただければ幸いです。
実際の施工にあたっては、経験豊富な設計者や施工業者にご相談いただくことを強くお勧めいたします。
